側面に溝がついているのは珍しいらしい。そう担任に教えられた日の小二の帰り道。私と友人はうっひょーーー¥¥¥!!!という感じで、地面を四つん這いになりながら帰宅した。約五百万年前にようやく獲得した直立二足歩行。その遺伝子。あの日の帰り道、二人の遺伝子に直立二足歩行の記憶はなくなっていた。あの見事な四つん這いを見たら、そう言わざるを得ないだろう。
結論。私と友人は、各々の母親に死ぬほど怒られた。あの怒りっぷりはすごかった。
怒りっぷりとぷりぷり怒る。
これをうまいことかけて、うまいことを言いたかったが、そうすることもできないほど怒られた。ズボンと手のひらが真っ黒だったことがいけなかったのか。近所の人から変な目で見られたことがよくなかったのか。いつもより帰りが二時間遅かったことがいけなかったのか。
なんにせよ、そんなに怒らないでほしい。私は友人と共に激しく探検をし、疲労困憊なのだから。それに、私に至っては一つの犯罪を止めたんだから。
それはもう、激しい探検だった。火の中(使われていない焼却炉)水の中(ドブ臭い側溝)草の中(公園の雑草)森の中(近所に森はあったが乞食のたまり場だったため行かなかった)
土の中(やみくもに土を掘りかえす)雲の中(降ってこいや!と友人が乞う)あの子のスカートの中(我々はズボンだった)
探し物といえばネットで完結するものと定義されてもおかしくない現代において、これだけ体を使い探検したのだ。それに小二という、そろぼち自我がしっかりしてきた程度の子供が自主的に考え、行動したのだ。むしろこれは褒められて当然の行為である。
加えて、前述したとおり私にはさらに褒めポイントがある。友人による友人のための、全10円玉ギザ10化計画を止めたのだ。
あまりにギザ10が見つからないことに、友人は辟易し「キョェェェェーーー!!」という叫びとともにランドセルをひっくり返した。そして、中から落ちてきたそれを手に取った。
ハサミである。それを見た瞬間、私は思った。ランドセルの中汚い!!!と。せめて筆箱に入れろよ、と。
友人は言った。「これでただの10円に溝をつける!!!」それは、小二の脳ミソから出てきた圧倒的名案であり、最強の小遣い稼ぎだった。
早速家に帰り10円を集めてくる!といったところで、私はある事実に気づき友人を羽交い締めにした。
「なに!?なんで捕まえたの!?」
「全部ギザ10にしたらよくないから!あと、ハサミ危ないから一旦しまって」
友人を解放し、ハサミをしまわせ公園のベンチに座った。
「なんで全部ギザ10にしたらダメなの?」
私は息を吸い、答えた。
「ギザ10の希少価値が無くなるから」
そう聞いて顔を歪める友人。
「希少価値ってなに?」
「わかんない」正直に答える私。「なんか、カッコいいから使いたかった」正直に答える私。
「そっか」
優しい友人。
「とにかく全部ギザ10にするのはダメなの。珍しくなるなるから」
そう、珍しくなくなるのだ。例えるなら、妖怪ウォッチで出てくる妖怪全てがSランクになるようなものなのだ。逆張り野郎ならば、耐えられない所業だろう。
友人をそっと見る。友人は暗澹の渦中にいた、とかは一切なく「そーやん!なんで気づかんかった!?えー!?」とへらへらしながら自問自答していた。
友人は笑った。私も笑った。母親は烈火の如く怒った。
とにかくハッピー!!!な出来事だった。
終わり。